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秋田地方裁判所 昭和26年(行)26号 判決

原告 小西雄太郎

被告 秋田県農業委員会

一、主  文

被告が昭和二十六年一月二十七日秋田県仙北郡荒川村下荒川字前山八番の一、山林一町三反一畝二十歩の内三反一畝二十歩に対しなしたる未墾地買収計画は無効であることを確認する。

原告その余の請求は棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、被告が秋田県仙北郡荒川村下荒川字前山八番の一、山林一町三反一畝二十歩のうち三反一畝二十歩及び同字観音堂二番、山林一町歩に対してなしたる未墾地買収計画は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求原因として、右山林はいずれも原告所有のものであるが、被告は昭和二十六年一月二十七日右土地に対し未墾地買収計画をたて、同年二月九日より同月二十八日まで縦覧に供した。原告は右に対し同月十六日異議申立をしたところ被告は同年六月二十九日却下決定をし、該決定書は同年七月十四日原告に交付された。

しかしながら右買収計画には次のような違法があるすなわち

(一)  前示二筆の山林のうち字前山八番の一はその七十パーセントが三十度ないし五十度、字観音堂二番はその七十五パーセントが四十度ないし六十度の急傾斜地であつて開墾地として不適当である。のみならず本件二筆の山林はいずれも杉植林地として好適地であつて、原告は従来から杉を植栽し、昭和十八年に政府の伐採命令により約四十年生の杉を約二万石伐採したものであり、現に右のうち字前山八番の一には右伐採跡地に昭和十九年に植林した杉立木二千本生立する外広葉樹も密生し、又字観音堂二番には三十年生の杉二百五十本、四年生の杉三千本が生立しているのであるからこれ等立木を伐採することは国家経済上よりも多大の不利益である。

又本件買収計画は秋田県仙北郡荒川村畑の山地区を農地として開墾のため買収したので同地区の採草地の代替地として買収するとのことであるが、右開墾のため買収された畑の山地区十八町歩のうち今日まで農地に開墾されたものは僅かに二町歩程度であつて、爾余の部分については入植者も未決定の状態であり、しかも本件土地は後日荒川村に譲渡する内約があるといわれる。又本件土地を利用し得る下荒川部落居住農家はその飼育家畜数が僅かに牛馬合せて二十三頭にすぎないのに、その保有牧野は三十数町歩を有している外尚荒川村有牧野十数町歩存するのであるが、右村有牧野に対しては既に杉を植林したのみならず他の右三十数町歩の牧野のうち十数町歩に対しても昭和二十八年度の杉の植林を計画しているのであつて、これ等のことを考慮に入れれば右保有家畜の飼育のためには前示下荒川部落居住農家の保有する三十数町歩の牧野を以て充分であつて、畑の山地区を農地に開墾しても採草地に支障を生ずる虞れはない。従つて本件土地を右採草地の代替地として買収する必要はすこしもないのである。このように代替地買収の必要がなく、しかも採草地とするより杉の植林地として存置せしめるを国家経済上遙かに有利な本件山林は買収すべきではない。右のような事情の下で本件山林を買収することは重大な違法を犯したものというべく、従つて被告のたてた本件買収計画は当然無効である。

(二)  字前山八番の一、山林の公薄面積は一町三反一畝二十歩であるが、被告のたてた買収計画は右のうち三反一畝二十歩であるのに該買収反別の区域がどこであるかは全然明らかにされていない。このように買収区域が特定されていない買収計画は手続にかしある違法なものであり、この違法は重大であつて、この点においても右買収計画は当然無効である。

よつて原告は被告に対し本件買収計画が無効なることの確認を求めるため本訴請求に及んだと陳述した(立証省略)。

被告指定代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告主張事実中冒頭の事実はその主張の字前山八番の一山林、同字観音堂二番山林がいずれも原告所有のものであること、被告が右山林につき昭和二十六年一月二十七日買収計画を樹立してから縦覧に供し、これに対し原告が異議申立をしたが被告はこれを却下し、該決定書が同年七月十四日原告に交付された経過事実が原告主張のとおりであること(但し異議却下決定は同年六月二十七日である)は認める。又原告主張の無効原因事実中(一)の事実はすべて争う。すなわち本件土地の大部分は杉伐採跡地と雑木地帯であつて杉の幼齢林の生立せる地域は特に本件買収計画から除外しているのである。もつとも右地域の一部に生育不良の約四十年生杉が約八十本生立しているが、該部分は本計画の地形上極少地域に過ぎないのである。又本件山林の買収はさきに開墾地として買収した荒川村畑の山地区を営農上の採草地として使用していた者に対しその代替地として交付する必要のため自作農創設特別措置法(以下自創法と略称)第三十七条に基き買収するものであるから、買収後は営農上の薪炭採草地として利用されるものであつて地形的に開墾適地たることを要しない。一方原告は呉服商を営みつつ山林原野合せて実測面積百数十町歩を保有しているものであり、本件土地の如く他町村に所在する雑木又は伐採跡地の少地域を買収されても原告の事実若くは生計に支障を生ずるものではなく、寧ろ健全な自作農創設の利用に供すべく開放されることが至当であつて、本件買収計画には何等違法はない。(二)字前山八番の一、山林の一部買収計画においてその手続上の面で地域を特定していなかつたことは認めるが、右地域は現地においては事実上特定していたものであり、又買収計画は買収処分の準備段階であつて、買収計画において特定されていなくとも買収令書において特定すればたりるのであるから無効原因とはならないと陳述した(立証省略)。

三、理  由

秋田県仙北郡荒川村下荒川字前山八番の一山林一町三反一畝二十歩(以下前山山林と略称する。)同字観音堂二番山林一町歩(以下観音堂山林と略称する。)がいずれも原告所有のものであること、被告が昭和二十六年一月二十七日右前山山林のうち三反一畝二十歩及び観音堂山林全部に対し未墾地買収計画をたててから原告の異議申立に対し被告が却下の決定をし、該決定書が同年七月十四日原告に交付された経過事実が原告主張のとおりであること(但し却下決定の日時の点を除く。)はいずれも当事者間に争がない。

よつて本件買収計画が原告主張の如く無効であるかどうか判断する。

(一)  原告は本件二筆の山林はいずれもその大部分が急傾斜地で開墾に適しない。仮りにさきになされた畑の山地区買収により同地域の採草地の代替地として本件山林が買収されるとしても、本件山林は昭和十七、八年には四十年生杉樹を多量に供出し、尚現に相当量の大樹存しかつ右の伐採跡地も数千本を植林した杉の幼齢林であるから、これを採草地とするが如きは国家経済上よりみて甚だしく不利益であり、従来どおり杉林として存置せしめるを遙かに有利とする。のみならず前示畑の山地区は殆んど開墾されず入植者も決定しない状態であり、かつ従来の畑の山地区利用者は尚三十数町歩の採草地を保有する外村有採草地を有し代替地の要がない旨るる述べ、これ等の事実関係よりみれば本件山林を買収するが如きは重大な違法を犯したもので、従つて本件買収計画は無効であると主張するけれども、本件土地はさきになされた畑の山地区買収の代替地として買収し、採草地(畑の山地区が採草地であつたことは弁論の趣旨に徴し明らかである。)として使用するものであることは成立に争のない乙第一号証により明らかであるから、原告主張程度の傾斜地であつても違法ということはできない。又本件山林の大部分が伐採跡地であることは原告の自陳するところであるから、これを買収するとしても直ちに採草地とするよりも杉植林地とするを国家経済上有利なりとはいえない。蓋し本件は前示のとおり代替地買収であるから国家経済上有利なりや否やは、さきになされた畑の山地区開墾の有要性と畑の山地区が従来採草地として使用されてきた重要性等の比較において決せらるべきだからである。

しかして右畑の山地区開墾の不必要従つて本件代替地買収が不要なことについては、この点に関する原告本人の供述は採用し難く又鑑定人渡部巖の鑑定及び検証の結果によつては肯認し難く、他にこれを認めるに足る資料がないから、さきに買収された畑の山地区が採草地として使用されていたものであり、本件買収がその代替地としてなされたものである以上買収の必要ありと推断する外はない。従つて本件買収計画が違法無効であるとのこの点に関する原告の主張は採用しない。

(二)  次に字前山山林の買収区域が特定しないとの点につき判断する。前山山林の反別が一町三反一畝二十歩であり、そのうち本件買収計画においてたてた買収反別が三反一畝二十歩であること、買収計画の手続面で該区域が特定していないことは当事者間に争がない。被告は右買収区域は現地において事実上特定した旨主張するけれどもこれを認める何等の資料もないから、計画の手続上特定されていない以上事実上も特定されていないといわざるを得ないのみならず計画庁において現地を事実上特定したとしても買収計画自体において特定するか、又は買収計画が表示上不完全であつても他の関係書類の記載を綜合して買収区域が特定されていると認められない限り未だもつてこれを法律上特定したものとはいいえないとみるを相当とする。

しかして買収計画に対して自創法上独立の不服申立を許しているのはこれを以て利害関係人の救済をはかるとともに買収処分の基本たる買収計画を速やかに確定せしめるためであるが、本件の如く買収区域の不特定な計画に対しては自創法上不服申立をなすに由なく、従つてかような買収計画は手続上重大かつ明白なかしある違法を犯した無効なものであるというを相当とする。

被告は買収計画は買収処分の準備段階であつて買収計画において特定されなくても、買収令書において特定すれば足りると主張するけれども、自創法上買収計画に対し独立して不服申立を許したことその他自創法の関係規定を勘案すると買収処分は買収計画に基いてでなければなし得ないというべきなのであるから、買収計画が無効である以上結局買収計画をたてないで、買収したことに帰するのであつて、買収処分が有効となる筈はないから被告の右主張は採用しない。しかして被告は本件買収計画の無効を争つているのであるから、原告が無効確認を求める利益を有することは明らかである。

よつて原告の本訴請求中前山山林の買収計画の無効確認を求める部分についてはこれを正当として認容し、その余の請求は理由がないから棄却すべきものとし、訴訟費用については民事訴訟法第八十九条、第九十二条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 小嶋彌作 安岡満彦 高山政一)

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